「ひとりで抱え込まないで」福祉と連携しながら住む家のない人をサポート

大阪府枚方市と交野市で、様々な事情で住居探しに困っている人を支援し、空き家とつなぐ事業「ケアリンクハウス」を立ち上げた上山登子(うえやま・たかこ)さん(有限会社啓友エステート/ケアリンクハウス代表取締役)。3人の子どもを育てるシングルマザーとして不動産業を営みながら、ケアリンクハウス事業を軌道に乗せようと奮闘している。

 

■住宅が必要な人と空き家をマッチング

 

上山登子さん(有限会社啓友エステート/ケアリンクハウス代表取締役)

不動産経営で18年のキャリアを持つ上山さんは、これまで多くの住宅確保要配慮者から相談を受けてきた。住宅確保要配慮者とは、高齢者や障がい者、低所得者、シングルマザー、DV被害者などの家を借りることに困難を抱えるケースが多い人たちだ。

「要配慮者には、家賃滞納やトラブルを避けたい賃貸物件のオーナーさんが貸してくれなかったり、賃貸保証会社の審査が通らなかったり、住まいを借りたくても借りられない障壁があります。そういった問題を居住支援法人と連携しながら一つ一つ解決して、住まい探しに協力してきました」。

一般の不動産屋では「手間ばかりかかって、お金にならない」と敬遠されがちな案件だが、上山さんは不動産のプロとして地道に支援を続けてきた。

500件を超える実績を通して、居住支援をめぐる現状に様々な課題があることを痛感し、よりよい仕組みを構築したいという思いがふくらんだ。

そして2023年、自らも居住支援法人の指定を受けて社団法人を設立し、住宅確保要配慮者へのサポートと物件仲介を専門的に請け負うケアリンクハウス事業を新たに立ち上げた。居住支援法人の取り組みに、不動産業の知識やスキルを積極的に生かして収益化をはかろうというプロジェクトだ。「ケアリンクハウス事業をビジネスとして成立させたい」という目標を掲げている。

「居住支援法人としては、要配慮者が賃貸住宅に円滑に入居できるように賃貸保証会社と掛け合う、家賃債務保証を提供するなどのサポートはもちろん、入居後の支援にも力を入れています。その人にどんな支援が必要なのか丁寧にヒアリングし、必要に応じて福祉事業者につないで、連携しながら見守りを続けます」。今後は、入居後の暮らしをサポートするサービスも展開する予定だ。「住居のリフォームや家事代行サービスを提供し、要配慮者が普通に暮らしていけるよう応援したい」。同時に、家事代行サービスの担い手として新たな雇用を生み出したいという狙いもある。

さらに、不動産業のスキルを生かし、要配慮者が住む家として空き家を活用できないかと模索している。現在、日本では空き家の増加が深刻な社会問題になりつつあり、総務省の「令和5年 住宅・土地統計調査」によると、23年時点で空き家の総件数は約900万戸にのぼる。「不動産屋として空き家オーナーに賃貸や買い上げ、サブリースを提案し、空き家を確保できれば、必要な人に住んでもらうことができるし、オーナーは空き家対策ができる。私たちの事業も収益が出せます」。

自宅も空き家をリフォームした賃貸住宅。ケアリンクハウスの事務所も空き家を活用する予定だ

こういった不動産業のノウハウをふまえ、ほかの居住支援法人に提供するパートナー事業にも取り組む方針だ。「福祉のために採算度外視で運営する支援法人も多いが、結局できることが限られてしまう。不動産のノウハウを生かして収益化すれば支援する人材をしっかり雇用できるし、要配慮者に対してより適切なサポートができます」。上山さんが「ビジネスとして事業を成立させたい」という理由はそこにある。

 

■誰もが幸せに暮らせる社会に

 

居住支援に関わったのは、「困難を抱える人を支える“家族”を助けたいという思いがあったから」という上山さん。幼いころに両親が離婚し母子家庭で育った。

兄弟は問題行動が多く、成人してからは上山さんがいろんなサポートをしてきた。「家族だから感情的になり、冷静に向き合うことが難しい面がありました」。また、自身も離婚を経験し、働きながら3人の子供を育てているが、家事や育児の一部を友人や専門家に頼ることで生活を切り盛りしている。

さらに自閉症スペクトラムがある子供がおり、現在ひきこもりの状態で、訪問看護を受けている。私生活で家族を支え、支援を受ける立場だからこそ、専門家のサポートの有難さがわかる。「私はこれまで周りの人からたくさん助けてもらったし、救われてきました。家族だからといって全部抱え込まなくていいんだよって伝えたい」。

「壁だらけだけど、悩んでいたら進まない。アイデアを思い付いたらエイヤーってやってみます(笑)」

事業は始まったばかりで苦労もあるが、やりがいも大きい。「支援した方に『どの不動産屋に行っても断られてきたけど、やっと見つかった』と安心してもらえることや、空き家のオーナーさんが活動を理解して協力してくれ、別のオーナーさんに声をかけてくださることがうれしい。そんな風にどんどん支援の輪が広がって、誰もが助け合って幸せに暮らせる社会になるのが理想です」。大きな夢を抱きつつ、まずは1号店を成功させることが当面の目標だ。

「支援が必要な人は、ひとりで抱え込まず『助けてほしい』と声をあげて。空き家を持て余しているオーナーさんは、空き家対策と同時に社会貢献ができると考えて、ぜひ協力を」。

 

ケアリンクハウスのホームページはこちら。https://care-link-house.com/

 

 




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